非等方性全方位カメラ

1.はじめに

 限られた視野しか撮像できない単一の通常カメラに対し,自己の周囲360度広視野を撮像する目的で全方位視覚系が様々に提案されている. 特に凸面鏡を利用した屈折反射光学系による全方位視覚系は周囲を一度に(ビデオレートで)観測できることから, テレプレゼンス・ロボット誘導・セキュリティなど幅広い分野へ応用がなされてきた. しかし周囲シーン全体を一枚の画像に収めているため,通常のカメラに比べ空間分解能が低いという欠点を持つ. 我々は非等方な性質を全方位視覚系に持たせることで,この問題に対してアプローチを行っている.  

2.非等方性全方位のアイデア

 反射屈折光学系の全方位視覚(以後単に全方位視覚系と呼ぶ)はFig. 1に示すように, 凸面鏡の鉛直下方にカメラを上向きに設置したシンプルな構成で,周囲360度側方の画像を一回の撮影で獲得できる. これまでに提案されている全方位視覚系では凸面鏡は円錐鏡・放物面鏡・双曲面鏡など カメラ光軸を対称軸とした回転対象形であった. そのため,シーン中の対象物の方位角は入力画像面上での方位角と等しくなる. すなわち方位に関して等しい性質-等方性-を持っている.  だがどのような利用においても等方性が最も適しているのであろうか. 我々は全方視覚系を移動ロボットの視覚として用いた場合,方位によって観測密度の重要性が異なることに注目した. すなわち進行方向(前方や後方)では衝突の危険性が高く,またシーンの更新が頻繁であるため,密な観測が好ましい. それに対し側方はそれほど密な観測は必要でない. このような方位によって異なる観測密度を得るために, 凸面鏡を横に引き伸ばし上から見た形が楕円のような形にしてはどうかと考えた(Fig. 2).  

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Figure 1 : 従来型全方位視覚の例(屈折反射光学系)Figure 2 : 凸型面鏡の引き伸ばし

 だが,単純に横方向へ引き伸ばした形の凸面鏡を用いればよいかというとそうではない. 凸面鏡をカメラ側から見たとき,中心から外側への放射方向はシーンでの仰角に対応し, 同心円状に回転する方向はシーンでの方位に対応する. このような対応に対して単に横に引き伸ばすだけでは方位によって異なる空間分解能分布を持たせることはできない. そのため,凸面鏡の変形法(鏡面の成形法)には特別な方法を用いている.  従来の凸面鏡は先に述べたようにカメラ光軸を中心とした回転対象である. このとき放射断面で定義される鏡面は円錐鏡の場合直線,同様に放物面鏡で放物線,双曲面鏡で双曲線であり, 回転対象ゆえどの方位の放射断面でも全く同じ式で鏡面が定義されていた. すなわち,単一の直線または曲線をカメラ光軸に関して単純に回転させて鏡面を成形していた. それに対し我々が提案する非等方な性質を持つ凸面鏡は,面形状を定義する式のパラメータを変化させながら回転させ,鏡面成形を行っている. Figure.3および4は従来型の鏡面成形と我々が用いた鏡面成形の違いを,カメラ側から見た図である. おおまかにいうと鏡面の底を一致させつつ回転に応じて曲率を変えている.

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Figure 3 : 従来の等方な全方位鏡の成形Figure 4 : 我々が提案する非等方な全方位の成形

 我々は放物線をこの方法で回転させて成形される凸型鏡を試作し,Horizontal fixed-viewpoint Biconical Paraboloidal Mirror:HBPミラーと名づけた.以下にHBPミラーを用いた非等方性全方位視覚系(以後HBPミラー系と呼ぶ)の特性について述べる.

3.HBPミラー系の特性

 HBPミラーを用いた非等方性全方位視覚系をFig. 5に示す. HBPミラーは放物曲線の回転で成形されており,その性質から正射影の撮像系を用いることで写像を単純化できる. 試作HBPミラー系の場合,通常のカメラで正射影系を作るために別途放物面鏡を使用している(図中下部). シーンから入射する光線はHBPミラーにより反射され,さらにカメラ視点に集中するために放物面鏡で反射される. 同じ大きさの対象物を同じ奥行きに配置した場合の入力画像をFig. 6に示す. 図中上下端部と左右端部では空間分解能が異なるため,対象物の射影される大きさが異なっている. また定量的な角度分解能変化(仰角0度付近)をFig. 7に示す. 図中横軸は方位,縦軸は角度分解能を表す. 方位報方向分解能・仰角方向分解能ともに0deg付近で大きくなっている.

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Figure 5 : HBPミラー系の入力画像例Figure 6 : 放物面鏡を用いた等方な全方位視覚系に対するHBPミラー系の角度分解能比

 全方位視覚系を使って様々な方位から接近する対象物の発見を行った場合について述べる. 接近対象物の発見はオプティカルフローを計算し,長さ2.0pixel以上のオプティカルフローが得られたときに発見とした. Fig. 8は2次元MAPを上から見た図で,前方・斜め前方・後方など衝突に関して重要な方位での検出力増加がHBPミラー系で得られた.  

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Figure 8 : HBPミラー系(赤)と従来の等方な全方位視覚系(黒)における接近物体発見可能距離分布

添付ファイル: fileuma_lantern_HBP.jpg 1223件 [詳細] filelantern_HBP_resolution.jpg 1353件 [詳細] filelantern_HBP_crash.jpg 1212件 [詳細] fileiso_small.gif 1200件 [詳細] filehyper_input.jpg 1053件 [詳細] filehyper.jpg 1050件 [詳細] fileHBP_stretch.jpg 1129件 [詳細] fileaniso_small.gif 1385件 [詳細]

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Last-modified: 2009-04-30 (木) 14:08:12 (5486d)