水中全方位カメラ

水中全方位カメラ †

１．はじめに

　これまでに開発・提案されてきた反射屈折光学系による全方位視覚はテレプレゼンス・テレビ会議・遠隔モニタリング・自立移動ロボット・航空など， 主に地上や空中での利用を目的とされてきた．我々は全方位ビジョンの新しい利用として，水中の全方位撮影に関しての研究を行っている．

２．水中全方位ビジョンの試作

　反射屈折光学系の全方位視覚は凸面鏡の鉛直下方にカメラを上向きに設置したシンプルな構成で， 周囲360度側方の画像を一回の撮影で獲得できる．我々はこの構成に基づいてFig. 1に示すような水中全方位ビジョンを試作した． 撮影用カメラとしてはビクター製デジタルハイビジョンカメラGR-HD1(動画時75万画素)を用いている． 使用した凸型ミラーは直径約61mmの双曲面ミラーで支持柱により専用マリンケースに固定されている． ミラーはアクリル筒により覆われているが，水圧による破損や封入された空気の浮力による系のバランス崩れを防ぐため， 水が混入できるよう小さな穴を開けている．　

Figure 1 : 試作水中全方位ビジョン	Figure 2 : モデル図

試作した水中全方位ビジョンの光学モデルはFig. 2に示す通りである． シーンから入射する光線は双曲面ミラーにより反射されカメラ視点に集中する． ただし，光線が媒体の違う物質境界を通過する際に屈折が生じる． 保護アクリル筒やマリンケース筺体による屈折は無視できる程度であるが， 水中からマリンケース内への境界で生じる屈折は画角の縮小および像面での集光に影響を与える． この二点を解決するために地上で使用するときよりも凸型ミラーをカメラから遠ざけて設置している． 　このようにして作成した水中全方位ビジョンを用いて実際の海中シーンを撮像した入力画像例をFig. 3に示す． Fig. 3は西表島沖の水深約15mで撮影されたもので，この程度の深さであれば照明なしで地上とほぼ同様に鮮明な全方位画像を得ることができた． Fig. 4は人間への提示のためにFig. 3を見やすくパノラマ変換した図である.

• 水中全方位映像(38MB)
  under_water_omni.mpg

Figure 3 : 水中全方位ビジョンの入力画像例	Figure 4 : パノラマ展開図

３．海底画像の貼り合わせ

　全方位ビジョンは周囲全体を一度に撮像可能であるが， 時系列で撮像された画像列を数多く用意しそれらを貼り合わせることでさらに広視野の画像を得ることができる． Fig. 5に示すように水中全方位ビジョンを横向きにして泳ぎながら海底を撮像し， パノラマ展開，さらに高解像度な部分を切り出して横1200pixel縦70pixelの帯状の海底連続画像Fig. 6を得た． 帯状海底画像は時刻が進むに従って徐々に更新されて(前に進んで)いくので， 隣接した画像がぴったりと合うように貼り合わせていき一枚の大きな海底画像を生成する． 　隣接画像間の特徴点対応はLucas-Kanade法によりオプティカルフローを推定することで行い， それに基づいた多項式近似変形を画像に施して貼りあわせを行った． 400枚の連続した帯状海底画像に対して，200枚目の画像を中心とした貼り合わせ結果をFig. 6に示す． 画像を変形しているため端の部分で歪みが多少見られるが，画像全体で継ぎ目なくズレのない貼りあわせができている．

Figure 5 : 海底の撮像とその貼り合わせ
Figure 6 : 切り出した帯状海底画像	Figure 7 : 貼り合わせ結果

４．揺れの補正

地上に固定設置して使用する場合とは異なり，水中・水上では系の揺れが１つの問題である． 特に船上での撮影は波の影響で大きな揺れを含み，そのまま人に提示を行うと非常に見づらいことが知られている． 全方位ビジョンの特性を利用した揺れの補正を船上での全方位画像に対して行った結果を以下に示す． 　全方位画像を用いた揺れの補正手法はこれまでに幾つか提案されており, その多くは全方位画像特有の周期性に基づいた手法である． 今回試作した水中全方位ビジョンを含む通常カメラと双曲面ミラーの組み合わせや， 正射影カメラと放物面ミラーの組み合わせの様な全方位ビジョンでは， パノラマ展開した画像上で水平面がSin波として射影される． 船上での揺れ補正ではちょうど海面の無限遠(いわゆる水平線)を上で述べた水平面として扱うことができる． パノラマ画像上でのSin波を抽出し，それを水平に戻す補正を画像全体に施すことで揺れのない画像を生成する． Fig. 7は揺れ補正を行うこうした一連の流れとその結果を示している．

• 補正前船上動画(7.5MB)
  panoramaswing.mpg
• 補正後船上動画(7.5MB)
  panorama_swing_correct.mpg

	(a)揺れを含む(傾いた)パノラマ画像
	(b)エッジ抽出
	(c)水平線のSin波近似抽出
	(d)揺れ補正結果
Figure 8 : 船上パノラマ画像の揺れ補正